フードテックとは？解消される課題と広域にわたる関連領域について解説

近年、SDGs（持続可能な開発目標）にも深い関わりのある「フードテック」という言葉を耳にする機会が増えました。フードテックとは、世界中の深刻な問題を解消するためのテクノロジーです。

この記事では、フードテックによって解消される問題や、関連のあるビジネス領域について具体的に解説します。今後携わりたい、あるいはすでに関わっている可能性がある、聞いたことはあるが詳しく知らないという方は、ぜひ参考にしてください。

フードテックとは

ここでは、フードテックの取り組み内容について解説します。社会貢献に不可欠な理由や今後の市場規模などに理解を深めましょう。

フードテックは食に関するテクノロジー

フードテックという言葉は「Food」と「Technology」を組み合わせてできた造語です。最先端のテクノロジーを活用し、食に関する新たな可能性を生み出すことを目的としています。例えば、新たな調理方法の発見や、これまでにない食品の開発などが挙げられるでしょう。

フードテックは食材の生産だけでなく、調理現場の効率化、新たな食材の開発と、幅広い領域に関連している取り組みです。そのため、外食産業だけでなく、農業から流通といったあらゆる分野に関連する概念であり、多くの人が携わる可能性があります。

フードテックはSDGsにも貢献する

近年、SDGsという言葉を耳にする機会が増えました。持続可能な開発目標という取り組みのことであり、その一つに「フードロス対策」があります。食料廃棄問題を解消し、収穫後の損失につながるフードロスを減少させるという取り組みです。

SDGsは世界中の共通目標であり、フードロスへの啓蒙やサプライチェーンにおける商慣習の見直し、フードバンクの推進など、日本でもすでに始まっている取り組みがあります。国際競争力を高めたい日本にとって、可能性を生み出す企業の存在は大きな支えといえるでしょう。

市場規模

近年では食に対する消費者ニーズは多様化しており、安定的な供給や安全性を担保した食材の確保が求められます。これらの課題を解消する方法の一つが、IoTやAIを活用した「スマート農業」です。

センサーを活用することで、気象条件に左右されない収穫や、農薬リスクを最小限に抑えた食材の提供を実現します。今後の世界的な市場規模は2025年までに約700兆円と試算されており、ITと食が融合することへの期待はこれまで以上に膨らむでしょう。

フードテックが注目される背景と解消される課題

フードテックが注目されている背景には、世界が抱えている問題が関係しています。どのような問題を抱え、どのように貢献する取り組みなのかを理解しましょう。

食糧不足問題

2050年の世界総人口は現在よりも約3割増加すると予想されていることから、人口増加に対応できる食糧の確保が求められます。しかし、地球温暖化による気候変動が影響し、収穫量にばらつきが生じることが懸念されているのです。

このような課題を解消する方法として、テクノロジーの活用が挙げられます。気候変動に左右されることのない方法で酪農や農業に取り組み、生産量の増加や生産性の向上を実現することで、安定的な食糧の確保が期待されるでしょう。

飢餓とフードロス問題

国連の発表によれば、飢餓に苦しんでいる人は8億人にものぼり、人口の9人に1人が食べ物に困っているといわれています。一方で、先進国では深刻なフードロス問題が発生し、大量生産された食材が廃棄されているのが現状です。

発展途上国では、栄養バランスの取れた食材が手に入りにくく、さらに保存可能な設備が手に届く場所に整備されていないなどの問題があります。そのため、栄養バランスの良い食材の開発や、長期保存が可能な食材の開発が期待されています。

ヴィーガンやベジタリアンへの対応

動物愛護や宗教上の理由、体質の関係などから、動物性たんぱく質を摂取しない人は世界中にたくさんいます。しかし、タンパク質は健康的な食生活送るうえで重要な栄養素のため、ヴィーガンやベジタリアンといった菜食主義の人でも摂取しなければなりません。

すでに開発されている代替肉（植物由来の肉）により、本物の肉や魚を食べなくてもタンパク質の摂取が可能です。今後はあらゆる食生活に対応し、より栄養バランスに配慮した食品が開発される可能性も考えられるでしょう。

食の安全を担保

食中毒、異物混入、産地偽装など、これまでに起こった食に関する問題により、食の安全に関心を持つ消費者が増加しました。これらの問題のなかには、企業努力を怠っていないにもかかわらず起こってしまった問題も挙げられます。

これらの問題を解消するためには、長期保存を実現するパッケージの開発や、人の手だけで対応することが難しい作業を自動化するのが有効です。例えば、製造工程で異物を検知したり、食品の傷み具合や成分分析を行なったりするツールなどが挙げられるでしょう。

人材不足

食に関する業界では、漁業や農業などといった第一次産業の従事者における高齢化が懸念されています。また、外食産業や製造業界などでも、人口不足の影響を受け慢性的な人手不足に悩まされているのが現状です。

このような問題を解消する方法として、ロボットやIoTを活用した省人化が有効と考えられます。AIによって適切な人材配置や食材の確保が実現すれば、従業員の負担軽減だけでなく、食品ロスへの貢献も期待されるでしょう。

フードテックのおもなビジネス領域

これまで紹介してきたように、フードテックは多くの問題を解決に導く取り組みであり、携わる領域も多岐にわたります。ここでは、フードテックに関連するビジネス領域について理解を深めましょう。

生産領域

生産現場にAIを採用することで、湿度や温度の管理、農薬の散布などといった作業の自動化が可能です。これにより、効率的に食材を育てられるだけでなく、管理者の負担が軽減されます。

また、トラクターによる農作業も、自動運転技術を採用することでタブレット端末での操作が実現するのです。このような技術が現場に採用されることで、生産性の向上や作業効率化が可能となり、人口減少の問題にも立ち向かえるでしょう。

調理関連

フードテックの技術は、一般家庭用の家電にも採用されています。スマートフォンとの連携により、検索したレシピの調理設定が自動で行なえるなど、これまで手動で行なっていた作業を自動化する調理器が登場しました。

他にも、フードロボットによる調理や盛り付け、配膳、後片付けなど、飲食業界での活用が期待される領域まで進められています。実用化が進むことで、人手不足や人的ミスの解消につながり、より質の高いサービスの提供が期待されるでしょう。

流通領域

これまで、規模の小さい飲食店などの小口注文による仕入れでは、手間や費用がかかるといった問題を抱えていました。このような問題を解消するために活用されているのがICTです。飲食店と生産者をつなぎ、必要な量の食材を新鮮な状態で仕入れることに貢献します。

また、スマートフォンによるデリバリーサービスが普及したことで、登録配達員が料理を届ける仕組みが誕生しました。これにより、飲食店側は配達担当者を確保する必要がなく、人員の削減が可能です。

中食・外食領域

スマートフォンの普及により、モバイルオーダーでの注文が増加しています。モバイルオーダーを活用することで、注文した時点での決済が可能なだけでなく、指定された時間による受取が可能です。

他にも、食材キットの活用により、食品ロスの軽減に貢献しています。食材キットの特徴は、料理に必要な調味料や食材がすでに適切な量で詰められていることです。栄養バランスに配慮した商品もあるため、献立に悩むこともありません。

次世代食品領域

フードテックが携わる領域では、すでに代替肉といった次世代食品が開発されていますが、他にもあらゆる食材の開発が進められています。例えば、ミドリムシの粉末を使用した食品や、必要な栄養素がすべて摂取できるグミなどが代表的な新食材です。

味や見た目はユニークなものもあるかもしれませんが、環境に配慮された食品や栄養価に特化した食品は、今後の食を支える重要な存在といえるでしょう。そのため、次世代食品のレシピ研究を進める企業は今後も増加すると考えられます。

健康食品領域

フードテックの領域には、健康食品の開発も含まれています。必要な栄養素を1食で補える食品を開発することで、忙しい状況や災害時などでも簡単に調理が行なえて、かつ適切な栄養補給も可能です。

また、体質や健康状態、宗教など、あらゆる人に対応する健康食品が必要なため、今後もより多くの人が安心して食べられる食品の開発が求められます。近年では、アレルギーを持っている人でも安心して食べられる食品が開発されています。

フードテックの領域は多岐にわたり多くの人が当事者である

フードテックの取り組みは、世界規模の問題を解消に導くテクノロジーであり、あらゆる分野や領域が関係しています。そのため、気付かないところで自身が携わっているという可能性も十分に考えられるでしょう。

食の分野における開発は、今後も推進されることが予想されます。より深い部分でフードテックに貢献するためには、最先端のテクノロジーに関する知識やスキルが必要です。必要スキルを習得し、これまで以上に当事者として貢献していきましょう。