デジタル免疫はこれからのシステムに重要!関連する技術とメリットを解説
この記事ではデジタル免疫について、活用するメリットやシステムに活かすポイントも含め詳しく解説します。
この記事ではデジタル免疫について、活用するメリットやシステムに活かすポイントも含め詳しく解説します。
知識・情報
2023/01/26 UP
- セキュリティ
- 技術
ガートナー社は「2023年の戦略的テクノロジーのトップトレンド」の一つに、デジタル免疫を取り上げました。「免疫」という言葉が使われているものの、単なるウイルス対策にとどまりません。セキュリティに関する用語であり、システムを安全に運用するうえで欠かせない用語です。
デジタル免疫はIT業界やシステムを語る記事において、今後広く使われると見込まれます。関連する技術も含めて、しっかり把握しておきましょう。この記事ではデジタル免疫について、活用するメリットやシステムに活かすポイントも含め詳しく解説します。
デジタル免疫とはなにか?
IT業界で働く方にとって、デジタル免疫の意味を知ることは重要です。ここからは3つの観点について、どのようなものかしっかり確認していきましょう。
システムに異常が起きた際の悪影響を軽減する仕組み
ITシステムには外部からの侵入や攻撃、ウイルス感染などにより、正常な動作を妨げられるリスクが常にあります。加えてハードウェアの故障やソフトウェアの不具合によるリスクも見逃せません。
デジタル免疫はこれらの脅威に直面した際に、トラブルから迅速に回復しシステムやデータを保護する仕組みです。適切な活用により、RASISに含まれる5項目の指標を改善できます。
・信頼性(故障のしにくさ)
・可用性(稼働率の高さ)
・保守性(障害が発生した際にも迅速な復旧が可能)
・保全性(データの一貫性が保たれる)
・安全性(データの機密性を守れる)
ビジネスを遂行するリスクを軽減できることは、大きなメリットといえるでしょう。
単なる「ウイルス対策」ではない
デジタル免疫には「免疫」という言葉が含まれるため、コンピュータウイルスへの対策手法と思う方もいるかもしれません。すでに解説したとおり、デジタル免疫はシステムの安全を確保する全般的な仕組みを指します。
デジタル免疫に取り組んだ結果、コンピュータウイルスの被害を受けにくくする効果は期待できます。しかしウイルス対策がおもな目的ではないことを理解しておきましょう。
デジタル免疫が求められる背景
デジタル免疫が求められる背景には、ビジネスにおいてデジタルが不可欠かつ重要な位置を占めていることが挙げられます。いまやデジタルは事業の効率化だけでなく、売上アップや事業拡大の施策にも積極的に活用されています。
このような事業環境では障害の起こりにくさや復旧の速さが、アドバンテージを得る重要なポイントです。システムが1時間止まったら、損害額は億の単位となるケースも珍しくありません。デジタル免疫は競合他社に勝つ施策を取るための重要なキーワードとなるでしょう。
デジタル免疫を実現する6つの技術や方法
デジタル免疫は、さまざまな技術を用いて実現されています。ここからはおもな6つの技術や方法を取り上げ、どのような仕組みで実現しているのか確認していきましょう。
その1:オブザーバビリティ
オブザーバビリティは、ソフトウェアやシステムの可視化を指します。時々刻々と変化する気象状況を観測するように、ソフトウェアやシステムの状況をチェックし続けるわけです。「可観測性」や「システム可視化」とも呼ばれています。
もし異常が発見されれば、どのような可能性があるか速やかに提示できるわけです。原因を迅速かつ的確に特定することは、より安全なシステムの提供につながります。
その2:AI拡張型テスト
AI拡張テストは、テスト自動化の進化形です。AIや機械学習を活用し、自動でさまざまな観点からソフトウェアのテストを実施できます。加えてテストそのものの実作業だけでなく、計画から分析まで一連の工程を自動で実施できることも強みです。
AI拡張テストの導入により、少人数でも充実したテストを実施できるメリットは見逃せません。
その3:カオスエンジニアリング
カオスエンジニアリングは擬似的な障害を起こすことにより、システムの脆弱性や耐障害性、ソフトウェアのバグを発見する手法です。トラブル発生時に、あるべき振る舞いをするかどうかチェックできます。システムの可用性や保全性、安全性を高める手法です。
カオスエンジニアリングは本番前の環境で実施し、本稼働後の運用に活かすことが代表的な方法です。一方で本番環境での利用も可能であり、実際に効果をあげている企業もあります。
その4:自動修復
システムに何らかのトラブルが起きた場合、正しい方法で自動的に修復されることが理想です。自動修復は、この対処方法を実現する仕組みです。ソフトウェアやシステムが自らを監視し、問題が発生した際には自動的に修復します。無人の状況でも人手を介さずに解決でき、運用への影響を下げられることは大きなメリットといえるでしょう。
その5:サイト信頼性エンジニアリング
サイト信頼性エンジニアリングは開発側のITエンジニアがシステムの運用に参画し、システムの安定性を確保する手法です。完璧さを求める代わりに、サービスレベルの目標を活用して管理することが特徴です。
これにより適時適切な改変や機能強化が可能となるほか、運用や保守のコストや労力も軽減できます。開発部門と運用部門の対立を防ぎ、システムの安定運用に寄与することも大きなメリットといえるでしょう。
その6:ソフトウェアサプライチェーンセキュリティ
ソフトウェアサプライチェーンセキュリティは、ソフトウェアを効果的に保護する仕組みです。以下に挙げる、ソフトウェアの成果物と密接に関連する項目が保護のおもな対象です。
・ソースコードやバイナリファイル
・開発ツール(コードリポジトリ、ビルドツールなど)
・依存関係にあるライブラリやパッケージ
・クラウドやコンテナの技術
・CI/CD(Continuous Integration/Continuous Delivery)
・IaC(Infrastructure as Code)
適切に保護することで、知的財産と大切な情報を守れます。
デジタル免疫を活用する4つのメリット
デジタル免疫の仕組みを活用することにより、事業運営に役立つ4つのメリットが得られます。デジタル免疫はさまざまな障害を取り除き、業務遂行をあと押しすることが特徴です。
多種多様なシステムを、少数のシステム担当者で管理できる
多種多様なシステムがある組織でも、少数のシステム担当者で済むことはおもなメリットの一つに挙げられます。システム担当者一人ひとりへの負担が大きく軽減されるためです。
システムの自動修復やオブザーバビリティは、これを可能とする重要な要因です。オブザーバビリティの実現により、どのような現象がどこで起きているか特定しやすくなるでしょう。
またシステムが24時間365日見張ることは、人間よりも得意な項目です。自動修復機能を活用した結果、組織によっては平日日中だけシステム担当者を常駐させ、人件費の大幅な節約を実現できるかもしれません。
いつでも安心して使えるシステムを提供できる
さきに解説したRASISに含まれる5項目「信頼性・可用性・保守性・保全性・安全性」の向上は、いつでも安心して使えるシステムの提供につながります。顧客からの信頼が増し、シェアの拡大につながるかもしれません。実際に、デジタル免疫が顧客満足度の向上につながった企業もあります。
セキュアなシステム開発を実現できる
デジタル免疫は、開発者にもメリットをもたらします。なぜなら開発者は、より安全・安心な環境で開発を進められるためです。外部から意図せず侵入され、悪意のあるソースコードなどが挿入される事態を防げることは、その一例です。情報が外部へ流出することも防ぎ、貴重な情報資産を守りながら業務を遂行できます。
また異常をいち早く検出でき、迅速に対処することも可能となるでしょう。セキュアなシステム開発の実現も、メリットの一つに挙げられます。
システムの開発工数を削減できる
AI拡張型テストは、テストに要する時間を削減できます。テストは開発業務のうち多くの時間を占める工程です。システム全体の開発工数を削減できるため、少数精鋭のチームでも開発を進められるようになるでしょう。開発費用の削減にもつながるため、デジタル免疫は開発会社のみならず、発注元の企業にもメリットをもたらします。
デジタル免疫をシステムに活かす3つのポイント
デジタル免疫をシステムや業務に活かすためには、コツがあります。ここからは、ぜひ押さえておきたい3つのポイントを紹介します。安定したシステム運用と業績拡大にお役立てください。
「セキュリティはシステム全体で対応する」という認識
現代では、性能の高いセキュリティ対策ソフトが販売されています。発注者のなかには安さやスピードを求めるあまり、「セキュリティ対策ソフトを入れておけば、適当にシステムを開発しても大丈夫」と思う方もいるかもしれません。
しかし本来セキュリティは、システム全体で作り込むものです。セキュリティ対策ソフトの壁を突破されても、もともとセキュリティ対策を施されたシステムの場合は被害を受けにくくなります。
このため「セキュリティはシステム全体で対応する」という認識を持ち、攻撃者に狙われそうなポイントは設計段階で徹底的にふさぐ対応がベストです。代表的な方法として、脆弱性を生まないように工夫してコーディングする、不必要なポートをふさぐ、情報にアクセスできるユーザーを制限するなどが挙げられます。
開発エンジニアと運用エンジニアの相互理解を深める
良い顧客体験を提供するためには、運用フェーズに入ってからの対応が重要です。以下の項目を継続的に行なえるシステムが望ましいでしょう。
・顧客のニーズや要望の変化に合わせて、機能の追加や改変をスピーディーに行なえる
・運用エンジニアの負担なく、安定した稼動が行なえている
このため開発段階から運用フェーズに入った段階のことを考慮し、業務を進めることが重要です。開発エンジニアと運用エンジニアの相互理解を深めることで双方の溝が埋まりやすくなり、顧客満足度の高いシステムの提供につながります。
機械にできることは機械に任せる
デジタル免疫を活かすためには「できるだけ人の目で確認する」という考えを捨て、機械にできることは機械に任せることも重要です。そもそも一人で24時間365日ずっとチェックし続けることは不可能ですが、機械であれば可能です。
これからの時代は自動化を前提とした開発、および運用の仕組みづくりが求められるでしょう。従業員は人間に向く業務に集中配置し、機械にできることは機械に任せる風土づくりが重要です。
デジタル免疫を正しく理解し安定したシステムにつなげよう
デジタル免疫の理解とデジタル免疫を構成する技術を活用することは、セキュリティの高いシステムを顧客に提供するうえで重要です。トラブルが起きにくく運用の手間を省けるシステムは、今後いっそう求められます。またIT業界が慢性的な人手不足に陥っているなかで、デジタル免疫に関する技術は効率的な開発にも寄与します。
「良いシステムは設計や開発の段階で作り込む」ことを念頭に置き、安定したシステムづくりにつなげましょう。