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チューリングテストとは?「人間らしく」思考するAIへの挑戦と反論

今回はチューリングテストに関する話題を中心に、AIと人間らしさについて考えさせられるトピックを紹介していきます。

チューリングテストとは?「人間らしく」思考するAIへの挑戦と反論

今回はチューリングテストに関する話題を中心に、AIと人間らしさについて考えさせられるトピックを紹介していきます。

知識・情報

2022/04/26 UP

生活や仕事のなかで、AI(人工知能)を利用するシーンが増えてきました。といっても、SF作品などに登場する「いかにも人間らしい」AIと比べると、物足りなさを感じている人もいるかもしれません。本物の人間と変わらない知能をもつAIは、実現可能なものなのでしょうか。

このような問題について考えるために提案されたのが、「チューリングテスト」という実験です。今回はチューリングテストに関する話題を中心に、AIと人間らしさについて考えさせられるトピックを紹介していきます。

「人間らしさ」を判定するチューリングテストとは

チューリングテストは、対象とする機械に「人間のような知能があるか」を判定するための手法です。1950年に、イギリスの数学者アラン・チューリングにより提唱されました。まだ電卓さえも登場していない時代の出来事です。

同氏は、機械における「知性」や「思考」についての研究に早くから取り組んでいました。また、「アルゴリズム」の意味を数学的に明らかにするとともに、現代のコンピュータの基礎理論となった「チューリングマシン」の考案者としても知られています。

チューリングテストの目的

チューリングテストでは、機械と人間とを区別するための厳密な方法が示されています。ここで「区別」とはどういう意味なのか、身近なものからイメージしてみましょう。

例えば、映画やアニメでは人間以上の知能に加え、意思さえももつAIが繰り返し描かれています。しかし、これらがフィクションであることは周知の事実です。実際には人間が演じているのだと理解したうえで、娯楽として観賞するのが通常でしょう。

スマートスピーカーやスマートフォンに搭載されている音声アシスタントはどうでしょうか。「Alexa」や「Hey, Siri」、「OK, Google」などと呼びかければ、人間を相手にするときと同様に自然言語で会話が進みます。しかし、実際のところは機械仕掛けの機能に過ぎないのだと、ほとんどの人が理解しているでしょう。

一方で、もし人間と確実に区別できない機械が存在するなら、それは「知能をもつ」と考えても良いかもしれません。チューリングテストは、そのような機械をみつけることを可能にします。

チューリングテストのやり方

チューリングテストの参加者は審査員とソフトウェア(AI)、ソフトウェアとの比較対象となる人間の三者です。審査員の前には2台のディスプレイとキーボードがあり、一方はソフトウェア、もう一方は人間が担当する別の端末につながっています。参加者はそれぞれ隔離されていて、相手を見ることができません。

この状態で、次の手順で実験を行ないます。

1.審査員がキーボードから質問を入力する

2.ソフトウェアと人間が回答すると、それぞれの内容がディスプレイに表示される

3.上記を繰り返したあと、審査員はどちらが人間だったのかを判定する

このとき、好きな音楽や文学作品のことなど、審査員は何について質問をしてもかまいません。ソフトウェアにとっては、できる限り人間らしく振る舞うことが目的です。同様の実験を繰り返して30%以上の審査員がソフトウェアを人間と間違えた場合などに、そのソフトウェアは「知能がある」とみなされ「合格」となります。

チューリングテストの特徴

チューリングら研究者たちは、「AI」という概念が定着する前から知性を備えた機械の可能性について考えていました。チューリング自身も、「機械は思考できるか」という問題について検討すべきだとしています。

これに対し、思考そのものよりも「機械は人間と同じことができるか」に焦点を当てている点が、チューリングテストの特徴です。「機械とは何か」や「知性とは何か」といった本質的な部分については、意図的に避けられました。哲学的なテーマを、それに近くて扱いやすい別の問題に置き換えることで、AIの賢さを測るための明解な手法を構築したのです。

厳密にいえば、チューリングテストが判定しているのは「人間的な機械か」であり、「知性のある機械か」ではありません。そのため、チューリングテストそのものの価値についても、哲学的な視点から議論の対象となっています。

チューリングテストへの挑戦と反論

チューリングテストへの挑戦と反論

ここからは、チューリングテストに挑戦した実際のソフトウェアと、チューリングテストそのものに対する反論について紹介します。

チューリングテストに挑戦したソフトウェア

チューリングテストに挑んだソフトウェアとしては、1966年の「ELIZA(イライザ)」と1972年の「PARRY(パリー)」が有名です。当時はコンピュータの性能が高くなかったため、どちらもデータベースと単純なルールにしたがって会話を演出するだけのものでした。

しかし、人間らしい振る舞いをすることが目的であれば、速度や正確さは必ずしも重要ではありません。結果的にテストを通過することはできなかったものの、実際に一部の審査員がこれらのソフトウェアを人間と間違えました。のちに「チャットボット」などと呼ばれるようになる、会話型AIの開発にも影響を与えたといわれています。

チューリングテストに初めて合格したのは、2014年の「Eugene Goostman(ユージーン・グーツマン)」でした。ELIZAやPARRYから時代が変わり、スーパーコンピュータで開発されたソフトウェアです。ただし、「ウクライナ出身のため流暢な英語が使えない13歳の少年」という設定つきであり、対話内容も公開されていません。

そのため、審査員を欺くことに注力してテストを突破したのだとの見方があり「疑惑の合格」ともいわれています。とはいえ、チューリングテストが再び注目されるきっかけとなったことは間違いないでしょう。

チューリングテストに反論する思考実験「中国語の部屋」

アメリカの哲学者ジョン・サールは、チューリングテストそのものに異議を唱えた人物です。同氏は「中国語の部屋」と呼ばれる、次のような思考実験を行ないました。

1.中国語の質問と、それに対する回答が書かれた完璧なマニュアルを用意する

2.マニュアルとともに、アルファベットしか知らない人を部屋に閉じ込める

3.部屋の外にいる人が、中国語で任意の質問を紙に書いて部屋に入れる

4.部屋に閉じ込められた人は、マニュアルにしたがって紙に回答を書き加え部屋の外に出す

部屋の外にいる人は、閉じ込められた人が中国語を理解していると思うでしょう。しかし、実際には意味のわからない記号の羅列を、マニュアルどおりに処理しているに過ぎません。したがって、たとえチューリングテストに合格しても、その対象が「思考している」とはいえないというわけです。

この意見については、さらなる反論もあります。チューリングテストの対象となるソフトウェアは、部屋全体に相当するというのです。この場合、人物とマニュアルを含めた全体が思考していないことを証明しない限り、チューリングテストは否定できません。

AIの側から見るチューリングテスト

AIの側から見るチューリングテスト

チューリングテストは人間の審査員から見て、ソフトウェアが人間のように振る舞うかどうかを判定するものでした。では、これをソフトウェアの側から見たらどうなるでしょうか。

人間と機械を判別する「CAPTCHA」

「CAPTCHA」は、コンピュータを操作しているのが人間であることを確認するための手法です。ソフトウェアでは認識が難しい文字などが描かれた画像を提示することで、相手が人間かどうかを判定します。Webサービスのログイン画面などで見たことがある人も多いでしょう。

CAPTCHAは「Completely Automated Public Turing Test To Tell Computers and Humans Apart」の略語で、実はチューリングテストの応用です。ただし、機械と人間の役割が逆になっていることから「反転チューリングテスト」に分類されます。

大量アカウントの取得やスパム行為といったソフトウェアによる不正を防ぐために、チューリングテストに由来する技術が役立てられているのです。

人の気持ちを読み取る「感情認識」

「機械と人間とを区別する」という話題からは少し離れますが、近年では人の気持ちをAIで読み取る「感情認識」技術も登場しています。文章の表現や声色、表情や脈拍数などの情報から、喜怒哀楽のような感情をソフトウェアで判別するのです。

この技術は、人間の脳内にある神経細胞を模倣したニューラルネットワークの理論と、その構造を多層的に用いるディープラーニングの発展により可能になりました。また、コンピュータの性能が向上したことにより、AIモデルとしての実用性が増したという背景もあります。

感情認識は、営業や接客のような人を相手にする仕事に役立つでしょう。ほかにも、SNSへの書き込みやアンケート結果の分析などへの応用が期待できます。

チューリングテストは未来のAIを考えるきっかけになる

チューリングテストは、ソフトウェアの「人間らしさ」を判定するための手法です。また、テストへの挑戦や反論の歴史を通して、「知性とは何か」という壮大なテーマについて考えさせてくれる存在でもあります。

現在のAIは、人間を判別したり感情を読み取ったりできるまでに進歩しました。今後の暮らしやビジネスにも、さまざまな変化をもたらす技術だといえるでしょう。

その一方で、機械と人間は何が違うのかという本質的な問題は、AIが誕生する以前から未解決のままです。最新技術にばかり注目するのではなく、「人間」について立ち止まって考えてみるのも大切なことかもしれません。