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ムーアの法則とは?半導体の未来予測が現代まで継続した理由を解説

本記事では、ムーアの法則はなぜ50年以上も継続し続けることができたのか、今後限界を迎えることはあるのかについて解説します。

ムーアの法則とは?半導体の未来予測が現代まで継続した理由を解説

本記事では、ムーアの法則はなぜ50年以上も継続し続けることができたのか、今後限界を迎えることはあるのかについて解説します。

知識・情報

2022/07/08 UP

現在のIT技術の発展に関するハードウェア要因として、半導体技術が進歩してきたことが挙げられます。今から50年以上前の1965年に、ムーアの法則と呼ばれる半導体に関する将来予測が発表され、おおむね半導体技術はその予測どおりに進んでいます。

本記事では、ムーアの法則はなぜ50年以上も継続し続けることができたのか、今後限界を迎えることはあるのかについて解説します。

ムーアの法則とは

ムーアの法則とはどのような内容でしょうか。またムーアの法則が生まれた当時の背景について紹介します。

ムーアの法則の内容

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※ムーアの法則(縦軸:トランジスタ数)

ムーアの法則とは、半導体の集積技術が今後どのように発展するかを予測したもの。電気を通す導体と電気を通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質を半導体と呼びますが、半導体から作られるトランジスタやIC(集積回路)も同じく半導体と呼ばれています。技術の進歩によりトランジスタおよびICの集積密度は今後18~24ヵ月ごとに倍増する、と予測したのがムーアの法則です。

ムーアの法則が発表されたのは今から50年以上前になりますが、いずれ限界を迎えるだろうと、これまで何度も言われてきました。しかし現代でも限界を迎えることはなく、法則が予測したとおりに集積度は増加しています。集積度が増加した要因はトランジスタの性能向上によるものですが、その成果が現在のIT技術の発展の礎となっています。

法則が生まれた背景

ムーアの法則を生み出したのはIntelの創業者でもあるゴードン・ムーアです。1965年、ムーアは電子技術の専門誌に執筆した記事のなかで、集積回路に搭載される部品数は今後10年において1年ごとに倍増すると予想します。この予想は経験則に基づくものであり、当時販売していた4種類のICの搭載部品数から推定したものでした。

10年後の1975年になると集積度は2年ごとに倍増すると修正されましたが、この予測がムーアの法則と呼ばれ、産業界での共通認識となりました。

なおムーアの法則について18ヵ月で2倍という数字が登場することもあります。当時IntelのMPUが18ヵ月で2倍に性能向上していたため混同されたと考えられていますが、現在では18ヵ月または24ヵ月のどちらの数字も使われています。

なぜムーアの法則は継続したか

1965年に発表されたムーアの法則は、なぜ現在まで継続できたのでしょうか。その理由はおもにトランジスタの性能向上の成果によるものです。その中身について技術的側面から解説します。

トランジスタの微細化が進む

トランジスタの微細化技術が進んだのは、微細化が電子機器の性能向上に直結するためでした。電子部品やICの微細化が進めば、搭載している製品自体の小型化や消費電力の低減につながります。また半導体の材料であるシリコンの製造コストが一定とすると、同じ面積上に多数のトランジスタを載せたほうが、同じコストでも性能が高くなります。

トランジスタ同士の距離が密になれば、電気を流す距離が短くなり、高速化や低消費電力化につながることもメリットといえるでしょう。トランジスタの寸法が1/kに小さくなると、応答速度がk倍、消費電力は1/k倍に下がるというスケーリング則が知られています。半導体業界ではスケーリング係数kが2、3年で1.4倍になるよう微細化を進めてきました。

半導体製造時に用いる装置の性能向上も、トランジスタの微細化に寄与しました。シリコン上に回路を書き込む際には、シリコンにレーザーを照射して回路パターンを焼き付ける露光装置を使用します。レーザーの波長が短いほど細かいパターンが作成でき、近年ではEUV(極端紫外線)露光装置が開発されたことで7nmプロセスの半導体製造が可能になりました。

トランジスタの構造・構成材料の改善

トランジスタの構造の改善も、ムーアの法則の存続に影響しています。トランジスタの一種であるFET(電界効果トランジスタ)は、以前はプレーナー(平面)型が一般的であり、この構造の延長ではいずれ微細化が限界を迎えるとされていました。しかし、そのあとにFinFETと呼ばれる立体型構造のFETが開発されたことにより、更なる微細化が実現しています。

他にも、FETを構成する材料の改善により、高速化や消費電力の削減を実現しています。FETの内部にあるゲート絶縁膜は、電荷の蓄積・放出を行なう役割があり、FETがオン/オフする速度に影響します。しかし構造を改善することにも限界があり、高速化を目指すと消費電力や発熱の要因となる漏れ電流が増加するという課題がありました。そこでゲート絶縁膜の材料を変更し、高誘電率(High-K)材料を使用することで漏れ電流を100倍以上削減することに成功しています。

ムーアの法則は限界を迎えるか

ムーアの法則は限界を迎えるか

これまで50年以上継続してきたムーアの法則ですが、現在でも微細化は限界に近づいていると言われることがあります。微細化がこれ以上進まないと予測される理由は何か解説します。

微細化は物理的限界に近づく

2015年に米国半導体工業会が発表したレポートにて、2021年にムーアの法則は崩れると予想されました。結局のところ2021年を過ぎた今はまだ法則は崩れていませんが、このような予想が生まれた背景について説明します。

近年、製造される半導体のサイズは10nm以下のオーダーになっており、徐々に原子の大きさという物理的限界に近づいてきました。トランジスタは原子の格子構造で電流制御を行ないます。原子1個のサイズは0.1nmオーダーであるため、さらにトランジスタの微細化が進めば、いずれ電子回路が実現できなくなります。

ただし、これまでも技術革新によって物理的限界を乗り越えてきました。新たな技術的革新が起これば、この課題を解決できる可能性はあります。

微細化により製造コストが増大

トランジスタのサイズがnmオーダーとなった現代では、集積度を上げると製造コストが大幅に増大することが課題となっています。研究開発機関のimecは、微細化の世代が進むごとに製造コストが30%前後上昇するという予想を発表しました。もし微細化の技術が実現したとしても、製造コストの問題で製品として成り立たないでしょう。

製造コストに関する課題を解決する一つの案として、チップレット技術があります。マイコンやメモリなど、一つの集積回路に統合されたシステムを組み込んだICをSoC(System on a chip)と呼びます。チップレット技術とは、本来は1枚のSoCで製造できるICを、複数の小さな単位に分割して製造し、後から組み合わせる方式のこと。微細化に適した回路部分に限定してコストの高い技術を適用すれば、通常のSoCよりも製造コストを抑えられます。

ムーアの法則の今後

ムーアの法則の今後

微細化が限界に近づきあることで、ムーアの法則の再定義が進められています。集積化の発展として、「More Moore」、「More Than Moore」、「Beyond CMOS」という3つの方向性があります。

More Moore

More Mooreとは、ムーアの法則をさらに進展させるアプローチのこと。微細化以外の方法も含めて、集積回路の性能を向上させることを目指します。例えば、デバイス構造の変更や新材料の導入、トランジスタの3次元実装などの技術が検討されています。

これまでのトランジスタは平面的な2次元の微細化が進められてきました。1nmに微細化したデバイスを実現するための開発も進められていますが、これ以上の微細化は物理的限界が近いため困難です。しかし、トランジスタを垂直方向に積み上げる3次元実装で単位面積あたりの集積度を上げれば、ムーアの法則を延命できると考えられています。

More Than Moore

More Than Mooreとは、集積回路にセンサやMEMSを集積することで、通常のトランジスタでは実現できない機能を追加するアプローチのこと。デバイス単体でみれば性能は変わりませんが、集積回路に新機能が追加されることでトータルでのチップ性能が向上すると期待されています。

例として、温度や圧力、加速度などを検出するセンサの追加、センサや通信系のアナログ信号の変換回路の追加、光通信および光電子デバイスなどの追加などが考えられています。新機能を追加するにあたり、独自の構造を製造することや、シリコン以外の材料を活用することなどに関する技術的課題があります。

Beyond CMOS

現在主流のトランジスタはCMOSトランジスタと呼ばれますが、CMOSとはまったく異なるデバイスで置き換えるというアプローチがBeyond CMOSです。CMOSでは電荷の有無がデジタル回路での1と0を表し、他のデバイスを使用する場合も同様の仕組みが必要です。1と0を表すのに、CMOSと同様に電荷をもとにするデバイスと、電荷以外を用いるデバイスの2通りがあります。

電荷をもとにしたデバイスであれば、原理は異なるものの、これまでの電子回路と同様に利用できるでしょう。一方で、電荷以外を用いるデバイスでは電子回路への適用に課題があります。電荷以外の要素として、有力候補と考えられているのが電子のスピンを活用した方式です。ほかには原子の動きを操作して電極へ接触させる、原子スイッチと呼ばれる技術も検討されています。

技術革新によりムーアの法則は50年以上継続した

ムーアの法則は半導体の集積度に関する将来予測であり、ICの集積密度は今後18~24ヵ月ごとに倍増する、というものです。トランジスタの微細化技術の発展、およびトランジスタの構造改善によって、過去50年ものあいだムーアの法則が予想した通りに進んできました。

近年、微細化が物理的限界に到達しつつあることや、製造コスト増大のため、ムーアの法則が限界に近づいているという予想もあります。しかし、これまでも何度か限界に近いと噂されながらも、技術革新により継続し続けてきました。ムーアの法則の今後の方向性としてMore Moore、More Than Moore、Beyond CMOSという3つがあり、いずれも半導体技術の研究が進められています。