データサイエンティストに必要なスキルとは?3つのスキルセットについて解説
本記事では、データサイエンティストに必要なスキルについて、関連する技術も含めて紹介します。
本記事では、データサイエンティストに必要なスキルについて、関連する技術も含めて紹介します。
キャリア
2023/07/12 UP
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データサイエンティストが担当する役割は多岐にわたり、データの分析だけでなく、ビジネス視点でのデータ活用も求められます。そのため必要なスキルも幅広く、すべてを理解するには相当の時間がかかるでしょう。
本記事では、データサイエンティストに必要なスキルについて、関連する技術も含めて紹介します。キャリアの方向性を熟考したうえで、自ら身に付けるべきスキルについて検討してみてください。
データサイエンティストのスキルセット
データの分析、データを活用するための環境構築、ビジネス上の課題解決など、データサイエンティストの業務内容は幅広く、人によって業務内容の認識も異なります。
一般社団法人データサイエンティスト協会では、必要なスキルセットを明確に定義して公開しています。スキルセットは、データサイエンス・データエンジニアリング・ビジネス力の3つに大きく分けられます。それぞれの領域については、詳細なスキルが以下の4段階でレベル分けされており、学習計画が立てやすいでしょう。
・シニア・データサイエンティスト(業界を代表するレベル)
・フル・データサイエンティスト(棟梁レベル)
・アソシエート・データサイエンティスト(独り立ちレベル)
・アシスタント・データサイエンティスト(見習いレベル)
データサイエンスの関連スキル
データサイエンスは、「情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う」こととされています。自然言語処理や画像・映像認識、機械学習、データの可視化、データの理解と検証など、データを効果的に分析するスキルが必要です。
データサイエンスの関連スキルについて、具体的に見ていきましょう。
非構造化データ処理
非構造化データは、自然言語や画像、音声など、構造が定義されていないデータのことです。機械学習や深層学習の題材として頻繁に用いられ、実用化されたサービスも存在します。
例えば、自然言語であれば文章の構造解析や、2つの文章の類似度の計算が可能で、人と文章での会話が可能なAIチャットボットの開発にも活用されました。また画像や映像のデータを用いて、物体の検出や人の識別、本人認証などに活用されています。その他、自動運転を行なう自動車が他の車や歩行者を検出する、顔写真から人を認証してセキュリティを解除するなども、非構造化データの活用例です。
解析技術
データの解析全般に関する内容であり、データサイエンスの根幹ともいえるでしょう。単にデータを見るだけでなく、その本質や関係性を深く理解し、的確な判断を下すための技術と知識が求められます。データの性質を理解するための統計処理や、データを類似度に基づいてグループ分けするクラスター分析などの技術があり、ビジネスの場面でも活用されている技術です。
機械学習や深層学習に関する技術は、大量のデータから特徴を学習し、予測や分類といったタスクを実行します。AIモデルの作成や評価に関する知識は、モデルの性能を最大限に引き出し、信頼性の高い結果を得るために活用されます。また、図やグラフを用いてデータを視覚的に表現する可視化技術は、データ解析の成果を他者にわかりやすく伝えるために重要なスキルです。
データ課題解決
データやグラフから読み取れる意味を正確に理解し、分析において目指す目的が達成できるかを判断する能力も求められます。データそのものを鵜呑みにせず、その背景を理解し、本質を見抜くことが重要です。例えば、売上データが急激に上昇したとき、それが季節的な要因なのか、もしくは何らかのデータ入力の誤りなのかを見分けなければなりません。
また、データに応じて最適な集計方法や比較基準を選択する必要があるため、データの種類に合わせて適切に集計・比較する視点を持つことも大切です。その他、解析した結果を他者が理解できる形で表現し、意味を的確に説明できる能力も求められます。
近年の傾向
2022年、ChatGPTのようなテキスト生成型AIが大きな注目を集めました。このようなAIは、あらゆる種類のテキストデータから学習し、文章を生成することが可能です。特に、その背後にある大規模言語モデルの基礎技術であるGPTやBERTが注目されています。これらのモデルは、インターネット上の大量のテキストデータを用いて学習し、高度な文章理解力と生成能力を持っていることが特徴です。
データ分析においては、交絡因子や選択バイアスなど、データに影響を与える潜在的な要素の扱い方を理解する能力が求められます。交絡因子は、分析したい2つの変数間の関連に影響を与える別の変数のこと、選択バイアスは、データが無作為に選ばれていない場合に生じる偏りのことです。これらの要素を適切に考慮しないと、分析結果の解釈に誤りが生じる可能性があります。
データエンジニアリングの関連スキル
データエンジニアリングは、「データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする」こととされています。プログラミング技術やデータ実装に関する環境構築、ITセキュリティへの理解が求められます。
データエンジニアリングのおもな関連スキルは、以下のとおりです。
プログラミング
プログラミングは、データエンジニアリングの基礎技術として不可欠です。具体的には、構造化データを分析するためのデータ処理スキル、要求仕様を満たすソフトウェアの設計から実装までを一貫して行なえる能力などが求められます。
大量のデータから有益な情報を引き出すため、データベース言語のSQLを使ったデータ抽出や、PythonやRを使用したデータ分析も重要なスキルです。加えて、ニューラルネットワークの設計や実装、非構造化データの処理、GPUで稼働するプログラムの理解など、より専門的なスキルがあれば重宝されるでしょう。
実装技術
データは価値ある情報へと変換される前に、「収集・蓄積・加工・共有」という一連の工程を経ています。それらの工程を実現するための技術的な知識や、適切な環境を構築するスキルが必要です。例えば、Webサイトからユーザーの行動データを収集したり、IoT機器から生じる大量のデータを取得したりするシステムを設計し、構築する能力が求められます。
さらに、データを安全かつ効率的に蓄積・加工・共有するために、データベースやデータウェアハウスの特性を理解し、HadoopやApache Sparkといった分散処理技術を使いこなすことも重要です。フィルタリングやクレンジングなどのデータ処理、Webサービスへのデータ展開やBIツールで可視化するスキルも必要とされます。
ITセキュリティ
膨大な量のデータを活用する現在では、データの安全性を保つためのITセキュリティが以前にも増して重要になりました。例えば、プライバシー保護に必要なデータのハッシュ化やマスキング技術の理解、認証技術の理解といったスキルが求められます。ユーザーのプライバシーを守るだけでなく、企業がデータを利用する際の信頼の獲得にもつながるでしょう。
さらに、サイバーセキュリティの脅威に対する知識も必要です。DoS攻撃、不正アクセス、マルウェア感染など、さまざまなセキュリティインシデントが存在しますが、攻撃を理解し、適切に対応できなければなりません。また、データの機密度に応じた暗号化と復号に関する知識も重要です。データが適切なセキュリティレベルで保護されれば、不必要なリスクを最小限に抑えられるでしょう。
近年の傾向
近年ではAIシステムを運用するための「MLOps」と呼ばれるスキルも、データエンジニアリングに求められる傾向があります。MLOpsとは、機械学習を取り入れたシステムのライフサイクルを管理し、運用のパターンなどを構築することで、システムをスムーズに活用する手法です。
また、クラウドの普及にともない、システムの構築を簡易化するコンテナの開発・運用やマネージドサービスに関するスキルが一層求められるようになりました。
さらに、5GやLPWAなどの通信技術、AutoMLやAIOps、RPAなどの自動化技術といった、近年普及しつつある技術についての理解も必要とされています。その他、リモート環境に対応するための各種システムや、セキュリティ技術に関するスキルもニーズがあります。
ビジネス力の関連スキル
ビジネス力とは、「課題背景を理解したうえで、ビジネス課題を整理し、解決する力」だとされています。ビジネスにおける倫理、データに基づく課題解決、マネジメントなどのスキルが求められます。
行動規範、論理的思考
ビジネスにおける成功の鍵となるのは、明確なゴール設定と、分析結果から本質的な問題を抽出し解決する力です。経験や勘だけに頼らず、データから得られる情報を重視して、価値ある結果を出す行動ができることが重要といえます。
データの内容を理解し、その意味を正しく言語化する能力も必要です。さらに、そのデータが示す因果関係に基づき、論理的で説得力のあるストーリーラインを構築するスキルも求められます。
その一方で、データの捏造や改ざんをしないこと、個人情報はプライバシーを尊重して適切に管理するなど、コンプライアンスの理解も不可欠です。どれだけ有益な結果を得られたとしても、自社の信頼性を損なう方法をとっていると、いずれ大きな損害につながるでしょう。
データ課題解決
データ課題を解決するには、まず事業の全体像を把握することが大切です。市場規模やビジネスモデルを理解し、それに基づいて目指すべきKPIやスコープを定めます。次に、課題解決に向けたアイデアを生み出し、どのようなデータが必要で、どのようなアプローチを用いて最終的なアウトプットにつなげるか検討します。
課題解決までの過程では、仮説を持ってデータを理解し、その仮説がビジネス観点で妥当かどうかをチェックすることが大事です。このプロセスによって、データが示す情報を深く理解することができ、その情報をもとに具体的なアクションを決定します。
ビジネス課題解決
ビジネスの課題を解決するためには、データ分析だけでなく、プロジェクトや組織をマネジメントする能力も求められます。具体的には、プロジェクトにかかわるステークホルダーや役割分担を明確にし、策定した計画を着実に進行管理する能力などです。
また、プロジェクトを進めるうえで必要なリソースとなる、予算やツール、人員を適切にマネジメントするスキルも重要です。
上記のスキルは、ビジネスを進めるうえで重要な側面を担い、プロジェクトの成功に大きく影響するでしょう。
近年の傾向
AI技術の発展により、ビジネスの在り方に大きな変化が起こっています。AIの活用により、近年大量のデータを高速に分析し、より洗練された戦略を策定できるようになりました。一方で、データやAIに関する倫理的な問題も増えてきています。例えば、AIの意図的な悪用やディープフェイクなどは問題の一部です。
ビジネスシーンでは、データ取得や運用システムの設計のなかで、AIのリスクを適切に管理する必要があります。なお、内閣府により設定されたAIを安全に活用できる状態の判断基準を「AI-Ready」と呼んでいます。
自分の強みを活かしたデータサイエンティストへ
データサイエンティストに求められるスキルは、データサイエンス・データエンジニアリング・ビジネス力という3つに大きく分けられます。すべてのスキルを十分に身に付けるには相応の時間が必要ですが、まずはそれぞれの基礎的なスキルを一通り理解しておくことが望ましいでしょう。
重要なのは、必要なスキルのなかで自分が得意とするものを特定し、磨き上げて武器にすることです。自分の強みとなるスキルを習得したら、現場でその力を発揮できるよう取り組みましょう。実務を通じた経験が、データサイエンティストとしての成長の重要なステップとなります。