【インタビュー】DX時代に求められる人材とは〜日本のDXの課題とデジタルエンジニアの必要性
日本のDX推進のキーマンとして経済産業省の研究会委員も務める山本修一郎さん(名古屋大学名誉教授)に、「日本のDXの現状」「DX人材」についてお話をうかがいました。
日本のDX推進のキーマンとして経済産業省の研究会委員も務める山本修一郎さん(名古屋大学名誉教授)に、「日本のDXの現状」「DX人材」についてお話をうかがいました。
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2021/11/29 UP
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近年、日本国内でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が広く浸透し始めました。経済産業省がDXレポートを発表するなど、企業単位でのDXへのアクションが求められています。
多くの企業がDX人材を求める時代になったいま、エンジニアはどのように対応していけばよいのでしょうか。
そこで今回、日本のDX推進のキーマンとして経済産業省の研究会委員も務める山本修一郎さんに、「日本のDXの現状」「DX人材」についてお話をうかがいました。
(インタビュアー・サクラサクマーケティング株式会社CTO 山崎好史)
山本修一郎(やまもと・しゅういちろう)/名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻修了・博士(工学)。NTT研究所を経て株式会社NTTデータにて要求工学、ユビキタスコンピューティング、オープンイノベーションの研究開発に従事。同社初代フェロー、システム科学研究所所長を経て、名古屋大学情報連携統括本部情報戦略室教授、大学院情報学研究科教授を歴任。2020年名古屋大学名誉教授、2021年4月から名古屋国際工科専門職大学教授、経済産業省デジタルトランスフォーメーション加速に向けた研究会委員、情報処理推進機構DX推進部専門員などを務める。近著『DXの基礎知識~具体的なデジタル変革事例と方法論』(近代科学社Digital)。
DX時代の到来
DX推進の背景
――9月1日にデジタル庁が発足し、これから日本においてDXの推進が加速化することが予想されます。近年、DX推進が注目されるようになった背景には、どのような理由があるのでしょうか?
山本修一郎(以下、山本)DXについて考えるとき、1990年頃までのIT化と現在のDX化の区別がついていない方が非常に多いと感じています。DXとは「デジタル技術とデータを活用し、企業全体を変革すること」を意味しますが、コンピューターを使って個別業務を自動化するIT化とDX化には大きな違いがあります。
――変革期はあったのでしょうか?
山本 イノベーションの波は、1960年~1985年頃のまだインターネットがない時代の電算化から始まりました。その後1994年に日本のインターネット元年を迎え、徐々に日本でもインターネットの普及が進んでいきました。
●イノベーションの波
時代 | 名称 | おもな技術 |
---|---|---|
1960-1985 | 電算化 | メインフレーム. DBMS |
1986-1992 | ダウンサイジング | PC, Windows, EUC, WS, サーバ, C/S, RDB |
1993-2005 | イントラネット,eコマース | インターネット,E-Mail, Web, WebDB連携,ポータルWebサービス, ICカード,RFID, 携帯 |
2006-2016 | モバイル, クラウド | モビリティ, クラウド, IaaS, Software as a Service, P2P, OSS, SNS, iPhone(07),Android(08) |
2017- | ポストクラウド | Machine learning, Speech/image processing, AI Agents/bots/algorithms, RPA, IoT, sensors, 3D Printer, server less, Vehicles, drones, robots, Smart products/systems, Wearables/implants, AR/VR, 5G , Biometrics/brain interfaces, Block chains, digital cash, GPUs, |
参考:『DXの基礎知識 具体的なデジタル変革事例と方法論(近代科学社Digital)』
インターネットの技術を企業情報システムで活用するため、データベースやWebサーバーがどんどん発展し、その後、2006年頃から携帯電話やICカードが一般に普及していきました。このように、IT技術を活用したサービスの利用は10年ほど前から始まっています。
2017年頃から今日にかけての時代は「ポストクラウド」と呼ばれています。IT技術が山のように登場し、私たちの生活に当然のように溶け込んでいます。こうした事情が、DX推進が注目された背景にあります。
――世界的にみて、日本はどのくらいDXが遅れているのでしょうか。
山本 10年ほど遅れています。日本のDXは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」がきっかけですが、当時、海外ではすでにDXの活動がスタートしています。
DXレポートに「2025年の崖」という報告書がありますが、この内容を知らない方が非常に多いです。DXに対して「AIやIoTで何かをする」という認識を抱いている方がほとんどだと思いますが、そうではありません。
参考:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』
「2025年の崖」は2018年にすでに話題になっていましたが、当初その重要性については誰も理解していなかったため、ほとんどの日本のユーザー企業がクラウドに移行していませんでした。また、クラウドに移行しているという企業の大部分も、メインフレームをオンプレミスで、その企業専用のクラウドを作っていた状況でした。
そのような状態では、海外のプラットフォーマーと勝負できないということで、経済産業省はDXレポートを発表しました。日本のDXの遅れについて、経済産業省は非常に大きな危機感を抱いているのです。
しかし、DXレポートを発表した当初は、「いきなりDXを推進しろと言われても、一気にクラウドには移行できない」という企業がほとんどでした。そこで、DX推進を前期・中期・後期の3段階に分け、移行期間として5年の猶予を設けました。
――DXレポートでは、2020年まではDXの準備期間で、今年(2021年)から移行期間になっています。しかし、DXが注目されてきたのはここ1〜2年ほどの話かと思いますが、そのような状態で、企業はDXの準備を十分に進めることができたのでしょうか?
山本 ほとんどの企業は準備できていません。DX推進の準備期間とは、DX戦略を策定する期間を意味します。しかし、DX戦略を明確に打ち出して、DXを推進するような大企業が登場したのはここ1〜2年のことです。
現在のメインフレームをデジタルプラットフォームに移行し、そのうえでデジタル経済に対応できるようなサービスを開発していくわけです。このサービスをデジタルアプリケーションと呼びますが、2021年~2024年のDX中期には、こうした体制を構築していくことが求められます。
海外ではこうした取り組みはとっくに終わっているので、やはりDXに関して日本は遅れているといわざるを得ないでしょう。
――「2025年の崖」が問題となっている背景には、どのような理由があるのでしょうか?
山本 日本で使用されているレガシーシステムの存在があります。2025年頃には多くのレガシーシステムの経過期間が20年を超えてしまいます。日本企業の8割がレガシーシステムを所有していますが、それを早急にクラウドに移行しなくてはなりません。
参考:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』
現在、日本のほとんどの企業がレガシーシステムの維持管理に大きなリソースを割いている状態です。そのため、新規ビジネスのシステム開発に対して十分な投資を行なえないということが起きています。
今、派遣社員として働いている方の多くは、レガシーシステムの運用・管理などを行なっているかと思います。レガシーシステムをおもに扱うような現場では、新しい技術を習得したい若手エンジニアなどが、辞めていってしまうケースも少なくありません。そのためDXを推進しようとしても、DX推進を支える人材が自社にいないのです。
コロナ禍であらためて注目されるDX
――コロナ禍によるテレワークの普及がDXを後押しした部分もあるのでしょうか?
山本 その影響は大きいと思います。これまで対面で行なっていた仕事を、非対面でするという話が増えました。テレワークに対応するために社内システムの変革が求められ、DXと真剣に向き合う必要性が出てきた企業は多いです。
●コロナ禍で加速するデジタル化
コロナ禍で加速したデジタル活用 | コロナ禍による社会・経済への影響 | ・GDPの低下・外出と消費の減少 |
消費行動の変化 | ・オンライン消費の増加:ネットショッピング、電子決済 ・オンライン番組配信、オンライン観光 ・ネットトラヒックの大幅増(12Tbpsから19Tbpsに約57%増加) |
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コロナ禍の公的分野のデジタル活用 | 行政サービスの課題 | ・特別給付金の支給遅れ,HER-SYS誤入力、COCOA不具合 ・行政職員のテレワークは6割程度 |
オンライン教育の拡大 | ・大学の約80%が対面オンライン併用 | |
遠隔診療の拡大 | ・約700機関、電話診療が主体 ・オンライン診療は2割程度 |
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コロナ禍における企業活動の変化 | ・製造業は回復基調 ・非製造業は小売・通信への影響は小 ・対面業種の落ち込みは大、回復見通しなし |
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テレワーク拡大・定着も,業種でばらつき | ・情報通信55.7% 金融保険30.2% ・医療介護福祉4.3% 宿泊飲食11.1% 運輸11.3% |
※参考:厚生労働省『新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)』
もう一つのポイントは、世の中が対面経済から非対面経済に変化したことです。オンラインショッピングの需要が爆発的に増加し、サービスをデジタル化する重要性に気付く企業が増えたわけです。
コロナ禍が始まった当初は、デジタル化のための投資はできなくなるのではないかと予想していました。しかし、実際には非対面業務・非対面経済の普及により、DX推進を後押しする結果となりました。
このような世情にあっても仕事の仕組みを変革させられない企業は、身動きが取れないままシュリンクしていく危機にあるのです。
――これまでは「対面の方が丁寧」「非対面での商談は失礼にあたる」といった風潮が強かったように思います。コロナ禍によって世の中の価値観が変化し、DXを推進できるようになったのでしょうか?
山本 そのとおりです。もともとオンラインで仕事をしていればよかったんですよ。私もDXに関する講演などの依頼を受けますが、対面で話をする必要性は特に感じていません。こうした意識の違いを見ても、日本のDX化は遅れています。
2000年頃まで、日本はIT技術の進歩においてトップクラスでした。しかし、この20年間で、あっという間に順位が下がってしまった。現在、デンマークやスウェーデンなど北欧でDXが非常に進んでいます。アジアではシンガポールがトップで、香港や台湾も、日本よりずっとDXへの取り組みが進んでいます。エストニアもDX分野で有名な国です。
「人口が少ないからDXが進んで見える」と言われることもあります(エストニアの人口は約133万人)。そうではなく、人々の考え方が合理的であることが、DXを推し進められた要因だと考えています。
日本はこの状況を放置してしまうと、諸外国との競争にどんどん負けていきます。レガシーシステムの維持管理に経費の8割を割いていて、新規ビジネスへの投資が2割の状態です。本来、この投資割合は逆転しなくてはいけません。
デジタル化が進んでいる国は、新規ビジネスへの投資を十分に行なっていて、クラウドへの移行などもとっくに済んでいるのです。
業務改革をしない企業が多いのも課題の一つです。日本のIT人材の8割は、ITベンダーやSIer(システムインテグレーター)に在籍しています。ユーザー企業には2割しかいないため、IT関連の業務は外注体制になってしまうのです。
現在、多くのユーザー企業がDX人材を欲しています。エンジニア視点で考えると、DXに必要な知識を習得することで、将来のキャリアプランが広がっていくといえるでしょう。
DXの重要性
――DXの導入部分は、ビジネスの一部をデジタル化していくことだと思っている方も多いと思います。しかし、本当のDXとは、さらに上の段階にあるのでしょうか?
山本 そのとおりです。これからの市場はすべてデジタルマーケットになります。「デジタルマーケットで、どのようなビジネスをするのか?」という段階になったとき、古いビジネスモデルのままではデジタルマーケットにアクセスすらできません。
●DXの定義
Stolterman(2004) | 経済産業省(2019) | |
---|---|---|
対象 | 人々の生活 | 企業 製品やサービス、ビジネスモデル 組織、企業文化・風土、業務プロセス |
目的 | より良い人々の生活 | デジタル企業 |
手段 | ITの浸透 | データとデジタル技術を活用 |
変化 | より良い方向に変化 | 競争上の優位性を確保 ビジネス環境の激しい変化に対応 顧客や社会のニーズに対応 |
つまり、これから企業はデジタルビジネスモデルを新しく構築していく必要があるのです。「メールやFAXをチャットに変更しました」というレベルの局所的変革では、この市場に入ることすらできません。
デジタルビジネスモデルを実現するためには、デジタルビジネスプロセスを考える必要があって、デジタルビジネスプロセスを実現するために、デジタルプラットフォームも必要になっていきます。
つまり、これからは「ビジネスモデル」「ビジネスプロセス」「プラットフォーム」の3段構えになっている必要があり、そのすべてをデジタル化しなくてはならないのです。
近年、日本でも優良企業はDX戦略を掲げるようになってきました。ようやくDXの重要性に気付いたという段階ではないでしょうか。時代に合わせて経営戦略を変革できる企業は、これからのデジタルマーケットでも生き残ることができるのではないかと思います。
ただ、DXは一度ビジネスを変革すれば終わりというものではありません。デジタルマーケットは変化の早い市場です。マーケットの変化に追随できるような能力を、デジタル企業は身に付けなくてはいけないのです。
ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』によく例えるのですが、同じ場所に留まるためにはずっと走り続けなくてはなりません。つまり、「DXには終わりがない」ということです。
――エンジニア視点で考えると、DXのスキルを一度身に付ければ、そのスキルで長く生活していけるのでしょうか?
山本 少し違うかなと思います。なぜなら、技術というのは日々進歩していくものだからです。どの分野のエンジニアにも当てはまりますが、常に新しい技術を学び続ける必要はあるでしょう。
古いビジネスモデルの企業が淘汰され、「デジタル企業が新しいデジタル企業によって市場から追い出される」ということも起きています。従来、オープンイノベーションの成功例として紹介されていたiTunesは、Spotifyのような無料音楽配信サービスが登場したことで淘汰されてしまいました。
つまり、新しいサービスを常に追い続けていないと、これからのマーケットでは生き残ることはできません。
経済産業省は、日本でデジタル産業を創出することを目指しています。しかし、日本の中小企業の多くは、まだまだデジタル産業に転換するのは難しいと考えています。リアル産業からいきなりデジタル産業に移行するのではなく、滑らかに融合していくのではないでしょうか。
日本におけるDXの事例
日本の「水道標準プラットフォーム」
――DXの事例として、日本政府が主導でDX推進している「水道標準プラットフォーム」がありますが、具体的にどのようなものなのでしょうか?
山本 「水道標準プラットフォーム」は、経済産業省がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で取り組んでいるものです。水道管や水道設備の状況をIoTデバイスで監視し、共通アクセスできるプラットフォームを構築します。この標準プラットフォームが運用できると、水道のビッグデータの分析も可能となります。
――なぜ、政府主導でこのような取り組みが行なわれているのでしょうか?
山本 日本の人口減少が背景にあります。特に地方はどんどん人が減っており、水道設備を維持・管理できなくなるため、このままでは水道料金が大幅に値上がりします。
そこで「水道データを広域で管理できるようにして、みんなで支えていきましょう」という考えに至ったわけです。
このように、DXの裏側には高齢化社会と人口減少社会が大きく関わっています。働き手がいなくなると税収も減少するため、デジタル化で効率を上げていかなくては、国を維持することができなくなるのです。
大企業はDX投資が活発化しており、これからどんどん変革が進んでいくことでしょう。しかし、8割以上の企業は、いまだにDXについて何をすればよいのかもわかっていないというのが現状です。
経済産業省はDX推進のためにさまざまな取り組みを行なっています。例えば、DX推進の準備が整っている企業に対して「DX認定制度」を設けたり、東京証券取引所に上場しているDX推進企業を「DX銘柄」として認定したりしています。
日揮ホールディングス
――特にDXが進んでいると思われる日本の企業はありますか。
山本 日揮ホールディングスです。プラントに関する大企業ですが、日本企業のなかでは進んでいます。DXレポートが出る前に、日揮は顧客であるエクソンモービルの社長から「2030年までに工数が3分の1、スピードは倍(工期を半分)にならない場合、日揮はマーケットから退出することになる」と指摘されています。それがきっかけで、2018年にDX推進の計画を策定しました。
日本でもグローバルなビジネスを展開しようとしている企業は、比較的早くDXの重要性に気付いています。しかし、日本国内のビジネスだけを考えている企業は、なかなか気付くことができていません。
エクソンモービルも、プラント監視装置をすべてデジタル化し、相互運用できるようなデジタルプラットフォームを構築しています。計画は2016年頃からスタートしていましたが、デジタルプラットフォームを新しく標準化するには5年以上の時間がかかります。もちろん、大ユーザーだけで計画を進めることはできません。さまざまなベンダーも巻き込んで、一緒に改革していく必要があるのです。
こうした動きも、日本よりも海外のほうが、スピード感があります。顧客と取引ができなくなってしまうという危機にさらされているので、積極的に変革しようとしています。
DX時代に求められる人材とは
日本のDXの課題
――日本のDX推進の課題は、どのような点にあるのでしょうか。
山本 課題の1つ目は、新しいデジタルサービスを構築できる人材が社内にいないことです。大手企業も投資が始まったばかりですが、DX戦略があってもそれを支える人材がいないのが現状です。
2つ目は、新しいデジタルサービスを作るためにはどうしたらよいのかがわかっていない企業が多いことです。中小企業のなかには、デジタルサービスについて考えたこともないところも少なくありません。
3つ目は、エコシステムの構築ができないことです。エコシステムの構築には他社との協業が重要となりますが、そもそも協業する枠組みがわからないというケースも多いです。
参考:総務省『令和3年版情報通信白書 情報通信白書のポイント』
――DXの話題では、製造業がフォーカスされることが多いように感じます。それはなぜでしょうか?
山本 DXの先駆けが、製造業だからです。IoTで生産現場の設備を監視したり、エンジントラブルの早期検出のためにIoTを設置したりといったことを行なっていました。
世界的に見て、日本の製造業のDXは遅れています。日本はかつて「ものづくりが世界で一番優れている」と言われていました。しかし、それは過去の話であって、現在はすっかり時代の波に乗り遅れています。こうした現状を理解していない企業も多いです。
●日本の製造業が抱えるデジタル化の課題
課題 | 説明 |
---|---|
体制や人材を整備できない | 製造業のビジネスモデルが「モノ」を作ることに最適化しており、それ以外のビジネスモデルを作る体制や人材が不足している |
ビジネスリスクが大きい | 第4次産業革命期の新サービスビジネス構築では正解例がないため、参考事例が少なく,多くの失敗を許容する必要がある |
ビジネスアイデアが出ない | 高品質の「モノ」を売る以外の発想ができない。新サービスを提案しても採算性が見通せないので却下される |
他社との協力が難しい | エコシステムの構築が不可欠であるにもかかわらず、従来自前主義を中心としてきたために、複数企業と協業する枠組み作りが難しい |
参考:MONOist『製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか』
製造分野のリアル産業とデジタル産業の融合、いわゆるデジタルツインについては、3Dプリンターの活用が有名です。デジタルツインとは、3次元設計から3Dプリンターで製品を自動で生産するものです。デジタル化することで在庫を保管する倉庫も不要になり、品質も良い製品ができます。
従来のビジネスモデルの小さな工場などは、どんどん淘汰されていきます。大手企業だけではなく、中小企業もDXを進めていかなくては、これからの時代を生き残るのは難しいでしょう。
求められている「DX人材」とは
――DX人材が不足しているというお話がありました。そもそも「DX人材」とはどのような人材なのでしょうか?
山本 AIやIoT分野の技術を習得しているだけでは、DX人材とは呼べません。DX人材は、顧客価値定義や、社会的な価値の定義もできなくてはいけないのです。
エンジニアが経営陣に「新しいことをやりたい」と提案しても、それはビジネスと結びついていないケースが見られます。「なぜそれが必要なのか」「どれだけの利益が生まれるのか」という話ができていません。
――DXはエンジニアを主体に進めていくものだと考えていましたが、IT技術だけではDX人材とは呼べないと?
山本 そうです。コアDX人材とは、「ビジネス価値を生むデジタル技術はどのようなものなのか」を見抜けるような人です。つまり、自らビジネス提案ができるエンジニアが必要とされています。
DXの根本が「デジタルマーケットで競争優位性を確保すること」を理解できていない方も多い。先ほども言いましたが、DXとは、業務がデジタル化して便利になれば終わり、というものではありません。
デジタルビジネスやデジタルサービスを考えて提案できるような人材が必要になっています。
求められているのは、積極的かつ能動的に新しい提案ができるような人材です。従来のエンジニアは「指示されたら作ります」という姿勢でも問題ありませんでした。しかし、DXでは「こういうデジタルサービスを作れば、これだけ会社や社会に貢献できます」という話ができる必要があるのです。
つまり、今のエンジニアをベースに「デジタルエンジニア」を創造していかなくてはいけない段階にきています。
エンジニアが、デジタルエンジニアとは何かを考える必要がある。つまり、デジタルエンジニアになるためには、エンジニアのDXが不可欠です。
いずれ、AIやIoTも簡単に作れるようなパッケージサービスが登場する可能性があります。デジタル技術自体はどんどん変化して古くなっていきますが、ビジネスモデルやビジネスプロセスといった知識はそれほど大きく変化していません。将来のことを考えると、早めに「ビジネス提案ができるエンジニア」という一段上のレイヤーに移っていくほうがよいでしょう。
まとめ
今回、山本教授に「日本のDXの現状」「DX人材とは」というテーマでお話をうかがいました。
世界的に市場がデジタルマーケットへと変化していくなかで、日本企業のDXは非常に遅れています。DXはただ業務をデジタル化するのではなく、デジタルマーケットでの競争優勢を確立できるような変革が求められています。
DX人材は、IT技術に加え、ビジネスをより良くしていくための提案をみずからできることも重要となります。
今の日本のエンジニアは、昔ながらの職人としてコーディングや設計など、システムを作るという視点でみると優秀な方は多いように感じます。一方で、なぜそのシステムを作るのか、ビジネスにどういうインパクトを与えるのか、といった視点で考えて提案できる人材は少ないのではないでしょうか。
山本教授は「デジタルエンジニアになるためには、エンジニアのDXが不可欠」といいます。本格的なDX時代を迎えるにあたり、現在のエンジニアはデジタル技術でビジネスサービスやビジネスモデルを主体的に考えて提案できる「デジタルエンジニア」への変革を求められています。