デジタルツインとは?注目される理由などを事例を交えて紹介
デジタルツインは、多くは製造業の現場での故障対応やECサイトでの在庫管理などに使われていますが、アイデア次第でいろいろな使い方ができます。ここでは活用事例を交えながら、デジタルツインについて詳しくご紹介します。
デジタルツインは、多くは製造業の現場での故障対応やECサイトでの在庫管理などに使われていますが、アイデア次第でいろいろな使い方ができます。ここでは活用事例を交えながら、デジタルツインについて詳しくご紹介します。
DX
2021/02/05 UP
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IoT分野とともに通信技術やセンサーが発展し細かい大量データが取れるようになりました。転送速度も速くなり、リアルタイムでのデータ連携もハードルが下がっています。こうしたデータを利用した新技術として注目されているのがデジタルツインです。
デジタルツインは、多くは製造業の現場での故障対応やECサイトでの在庫管理などに使われていますが、アイデア次第でいろいろな使い方ができます。
ここでは活用事例を交えながら、デジタルツインについて詳しくご紹介します。
デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実に存在しているものと同じものをデジタル空間で表現したものです。
現実に稼働している機械は未来永劫同じ状態ではなく、摩耗したり、振動でずれたりします。何かトラブルが起こるのは、多くの場合そういった少しの積み重ねが大きなものになってしまったときです。トラブルに対応しようとする際も、原因を調査する前にまずは不具合を起こしたものの現状調査から行うこともしばしばあります。
デジタルツインは、リアルタイムで現実のデータをデジタル空間に反映していくので、現実に発生している摩耗やずれまで再現されます。万が一のトラブル時の状態を後から再現できることに加えて、正しい状態と一定以上乖離した際にアラートを上げるような予防システムも作ることができます。これも現実世界の情報をほぼ同時にデジタル空間に遅れるからこそ実現できる仕組みです。
新規開発の際もデジタル世界でシミュレーションを行えることは大きな強みとなります。作ったものがどのような動作をするか事前に確認ができれば、実際に現実世界で起こりうるトラブルなどの予測に役立ちます。
シミュレーションとの違いは
デジタルツインもシミュレーションの一種であることに間違いはありません。大きな違いは現実世界と双子のように連動していることです。
従来のシミュレーションは、変化していくパラメーターをすべて手動で入力していく必要がありました。考慮すべき要素も多く、実際に稼働した状態を完璧に再現するのは難しく、ある程度の知識や専門性が必要となります。
デジタルツインであれば、そういった情報をリアルタイムで取得しているので、新たに設定をする必要がありません。デジタル空間でできあがった現実と同じものを使い、さまざまなパターンを試すことができます。
なぜデジタルツインが注目されるのか
最近注目され始めたデジタルツインですが、なぜ注目され始めたのかについて説明します。
進むDX(デジタルトランスフォーメーション)
近年企業ではDX化の流れが進んでいます。デジタル技術を駆使して、これまでの業務のあり方を変革していくことができるDXは、生産性や利益性の向上に大きく役立ちます。
DXで集めた大量データの分析はAIで行い、経営方針やマーケティング戦略に役立てる場面が増えてきましたが、同じデータはデジタルツインでも活用できます。精度のいい、より現実に近いデータを得ることができれば、デジタルツインでの検証結果をより正確なものにすることができるからです。デジタルツインの検証結果を分析に反映させることで予測の精度も上げることができるため、両者は切り離せない関係にあります。
DXを使って変革するプロジェクトの中にすでにデジタルツインが組み込まれているところもあり、多くは新規開発や保守メンテナンスの場面で活用されています。
なお、DXの詳細は以下URLの記事も併せてご参照ください。
デジタルトランスフォーメーションとは?基本的な知識から実例や課題まで詳しく解説!
IoTの普及
IoTはあらゆるモノにセンサーを付け、そこから情報を収集して活用するシステムです。センサーの精度が上がり、位置の特定や強さなども検知することができます。5Gの技術があれば、それをリアルタイムで別システムに連携して利用することができます。
デジタルツインが必要とするのがより現実と近いリアルタイムなデータです。IoTで膨大なデータが集められるようになったからこそ、デジタルツインが現実化したといっても過言ではありません。
IoTはどちらかといえば、現実をデータ化することと取得することに重きが置かれているため、活用しようとすると別の技術や知識が必要となってしまいます。IoTで集めたデータを活用する選択肢の一つがデジタルツインとなっています。
なお、IoTの詳細は以下URLの記事も併せてご参照ください。
IoTの意味とは?IoTの活用事例と将来性について
デジタルツインの活用事例
ここでは実際に活用されているデジタルツインの例を紹介します。
自動車開発・交通情報
自動車業期では安全性や性能のデータ取得のための活用が始まっています。カーレーシングの現場では、試作車両にセンサーを付けてデータを収集し、改善を重ねることで開発を進めています。
従来の方法では取得できなかったデータが取得できる上に、データをクレンジングしたり取り込んだりする手間がありません。開発のスピードを上げることにも一役買っています。
一般車両にデジタルツインを搭載した事例では、渋滞予測などの情報提供を行っています。走行している速度の情報やブレーキの回数など運転中に取得できるデータはたくさんあります。
また、車体だけでなく、例えば運転手の瞬きの回数を検知すれば居眠り運転防止になるなど、社内のデータも活用することができます。車両の情報と運転手の情報を両方合わせた上で、適切なタイミングで休憩を進めるなど、情報が増えるほど応用できるバリエーションは広がっていきます。
医療機関
遠隔で治療を行うなどのロボット技術はすでに医療現場で活躍しています。そこにデジタルツインの考え方を合わせることでさらなる活用が期待されています。
医療行為に直接かかわるものとしては、デジタルツインを利用して収集したデータで手術を行うところまで検討はされていますが、それ以外の医療行為に直接かかわらないところではすでに導入が進んでいます。
勤務する医師や看護師のいる場所が分かれば、人が足りなくなっているところへの適正配置ができると同時に、労務管理も行うことができます。ウェアラブル端末で常に健康情報が収集できれば、検温や血圧測定に病棟を回る時間は不要となります。
自動化できる部分を作り機械に任せることで、医師や看護師の負担が軽減されれば、本来力を入れるべきことに注力できます。その結果、医療体制、医療サービス自体の向上まで見込むことができるのは大きな活用メリットです。
航空機エンジンのメンテナンスでのデジタルツイン活用
航空機エンジンのメンテナンスでもデジタルツインは活用されています。航空機ではエンジンに取り付けた200ものセンサーからリアルタイムに情報を収集しており、エンジンの状況をそれぞれリアルタイムで把握することができるようになりました。万が一の事態が発生する前に不具合を検知して、メンテナンスに出せるのは航空機の安全性を確保する上で大きな安心材料となります。
また、航空機は部品に高い安全性が要求されます。不具合を起こす前に確実に取り換えるのが重要ですが、その頻度は経験上のデータから割り出されていました。少し先のメンテナンスや交換で問題ない場合でも、前倒して実施しており、結果的にコストがかかっていた現状があります。デジタルツインで取得したデータをもとに適切な頻度でメンテナンスや交換ができれば、余計なコストをかけずに安全に運航できます。
バーチャル・シンガポール
デジタルツインは何を対象としても構築することができ、組み合わせることで現実に近い空間を作り出します。バーチャル・シンガポールはシンガポール国家全体を対象としたデジタルツインを構築しようとする取り組みです。
2014年にスマート国家構想を政府が打ち出してから、シンガポール国土をデジタル化し、センサーの設置を進めています。それらのデータを活用して、より住みやすい社会を作ろうとするのがバーチャル・シンガポールの趣旨です。道や建物などそれほど変動しない情報を3D空間に再現し、気象情報や交通量など変動する要素を、デジタルツインを使ってリアルタイムで再現していきます。
これくらいの規模になると、目的を明確に持って情報を集めなくても、集めた情報を眺めているだけで何らかの価値を見出すことが可能です。収集できたデータと発想力が合わさればまだまだ可能性を秘めたプロジェクトです。
デジタルツインで産み出されるビジネス
デジタルツインを利用して、企業が発展していくための方法はさまざまです。重ねて今まで取れなかったデータが取れることにより、新しいサービスを産み出すきっかけになっています。
航空業界でデジタルツインを用いたビジネススタイルの先駆けとなったのが「パワーバイジアワー」です。航空機エンジンのメーカーが航空機を利用するキャリアに対して、時間ごとの出力料金で課金していくシステムを作り上げました。
従来エンジンを含めて航空機は購入するものでした。そのため1台当たりの価格が高いとキャリアもなかなか購入に踏み切ることができません。パワーバイジアワーが導入されたことにより、一括で大きな金額を払う必要がなくなったので、航空キャリアが新しい航空機をより利用しやすい状況ができあがっています。
エンジンメーカー側も取得したデータをもとに、操縦プロセスの変更提案などのコンサルテーションサービスを展開し、新たなサービスを作り出しました。
このようにデジタルツインを各企業がどう活用していくか、どんなサービスを産み出すかが今後の発展のカギとなっています。
デジタルツインは未来への発展にかかせない次世代テクノロジー
デジタルツインはすでに各業界で活用され始めていますが、まだまだ利用できるデータがたくさん眠っており多くの可能性を秘めています。モノを売っておしまいのところから、売った後のサービスや、売らずにレンタルするサービスなどの登場でビジネスの幅は大きく広がりました。
モノを所有しないコト消費に転換していく時代において、デジタルツインが産み出すサービスは顧客のニーズにもマッチするものとなっています。今後ビジネスが発展していくためには、デジタルツインをどうやって導入し、活用していくかが鍵となるでしょう。